デザインや機能性に優れ、時代を超えて愛される名作家具や照明たち。実用品を超えて芸術作品としても評価されています。
数ある名作の中から今回は、2002年に誕生したKartellの名作「ルイゴースト」を紐解きます。
ルイゴースト
デザイン:フィリップ・スタルク|Philippe Starck|フランス
製造:カルテル|Kartell|イタリア
2002年|ダイニングチェア
長い家具のデザイン史の中で名作と言われる椅子があります。その姿は時代と共に受け継がれ、2000年以降の名作と言えば、真っ先にこの「ルイゴースト」を思い浮かべる方も多いでしょう。
現代の家具、チェアのデザインに最も大きな影響を与えた椅子のひとつです。
<目次>
新古典主義デザインと最先端素材
Kartell社による革新的な製造方法
進化し続ける素材「ポリカーボネート」
たくさんのファミリー
「ルイゴースト」の成功を支えた立役者「ラマリー」
存在が透明であること
世界中で愛される旅人
新古典主義デザインと最先端素材
激動の18世紀フランスルイ王朝の時代に生まれた格式や様式美を重んじた新古典主義のスタイルを、当時誰もなし得なかった透明なポリカーボネートの一体成型という技術を組み合わせて完成させました。
フィリップ・スタルクが、誰もが既視感を感じる伝統的なでデザインを、誰も見たことのないスタイルで完成させたのが「ルイゴースト」です。
今では名作としてメジャーな「ルイゴースト」ですが、発表当時は装飾を極限まで省くシンプルモダンなデザイン全盛の時代、突如差し込んだポストモダンの強烈な光のような印象でした。
Kartell社による革新的な製造方法
「ルイゴースト」が誕生する為に欠かせなかったのがイタリアのカルテル|Kartell社の革新的な技術です。
ガラスのように透明でありながら、強靭で軽い素材ポリカーボネートを、大きな金型を使って射出成形で作り出しました。
組み立てによる接合部が無く頑丈、雨風に弱い木や布を使わない上に軽く容易に持ち運べるので屋外環境でも積極的に用いられています。更にこのデザインで6脚のスタッキングまで可能です。
デザインだけではなく椅子としてのエポックメイキングな点も「ルイゴースト」が名作と呼ばれる理由です。
進化し続ける素材「ポリカーボネート」
素材であるポリカーボネートはガラスの透明度と弾丸をも弾く強靭さを併せ持つ素材です。
さらにカルテル|Kartell社はこのポリカーボネートを環境に配慮したバージョン2.0として、セルロースと紙を原料に混合させた素材に進化させています。
これはKartell社がのみが使用している地球環境に配慮した素材です。
それまでのポリカーボネートの特徴をそのまま引き継いだ上に見た目には違いが全くわからず、目に見えない素性の部分が最も進化を遂げているのです。ジェネリックな商品には無い正規品だけのアドバンテージです。
たくさんのファミリー
「ルイゴースト」の爆発的な成功は、後にファミリーと呼ばれる派生モデルを生み出しました。
特徴的なメダリオン型の背もたれを受け継ぎ、肘掛けを省略した「ヴィクトリアゴースト」、背もたれが無いスツールタイプの「チャールズゴースト」、そのままキッズサイズにした「ルールーゴースト」、椅子ではなくミラーの「フランソワゴースト」など。
優れたデザインの良い製品をより多くの人に届けることを目指していたフィリップ・スタルクの最も代表的な作品になりました。
「ルイゴースト」の成功を支えた立役者「ラマリー」
「ルイゴースト」を語る上で避けて通れないのが「ラマリー」の存在です。
フランス人デザイナーフィリップ・スタルクとイタリアのカルテル|Kartell社が世界で初めて送り出したポリカーボネートの一体成型の透明な椅子は、実は「ルイゴースト」ではなく1999年に発表された「ラマリー」です。
発表当時、洗練されたデザインで瞬く間に大人気となり一斉を風靡しました。
存在が透明であること
名称の後半「ゴースト」の部分が示すように全身が透明であることは、それまでの椅子のあり方さえも変えてしまいました。
存在感を消すことで床面積が限られた都市部の住宅においても圧迫感は皆無、外光を取り込む方角が限られた集合住宅でも部屋の奥まで光を透過し、無色透明なので周りのインテリアや様式にも溶けこんで、幽霊(ゴースト)のように姿を消すのです。
「ルイゴースト」は誕生以来、素晴らしい出会いにも恵まれています。
2007年にはローマ法王ベネディクト16世の式典に採用、英国女王エリザベス2世はファッション誌ヴォーグを率いたアナ・ウィンターと「ルイゴースト」に座ってファッションショーを見学されました。
プラハやウィーン、そしてミラノ・スカラ座など世界最高峰の劇場でも椅子として舞台を踏んでいます。日本では又吉監督のWOWWOWドラマのテーマにもなりました。
また、透明故に数々のアート作品のキャンバスとしてや、誰もが知っている人気キャラクターとのコラボレーションも話題となりました。単に椅子という枠組みを超え、様々なクリエイティビティのベースとしても選ばれています。
世界中で愛される旅人
ミラノ生まれの「ルイゴースト」ですがこの20年の間に世界中の都市で愛用されるようになりました。
水の都ヴェネチア、北京では万里の長城に、アフリカ最南端の南アフリカケープタウンの崖の上、ビッグベンを背景にロンドン、パリでは凱旋門を遠くに眺め、マンハッタンを臨むニューヨーク、美しい山と海が共存するリオデジャネイロ、東京はなんと電気街秋葉原に出現しています。国境を超え世界中で愛されている「ルイゴースト」らしいショットです。
名実共に成功を収めた「ルイゴースト」。名作と言えど、誕生後時が経った現在でも時代に沿った進化をし続けている類まれな名作家具のひとつです。
フィリップ・スタルク|Philippe Starck
フランス人デザイナー、1949年生まれ。
インテリア、家具、照明、建築、日用品、パッケージ、アパレルに至るまで、これまでにありとあらゆる分野のデザインを手掛ける。
パリのカモンド美術学校卒業後、ピエールカルダンのアートディレクターを務め、インテリアと家具のデザインを担当。独立後多くのインテリアデザインを手がけ、その活躍ぶりが当時のフランス大統領、ミッテラン氏の目に留まり、1982年エリゼ宮殿のスイートルームのデコレーションを任される。
これを機に世界中から脚光を浴び、出世作でもあるパリの「カフェ・コスト」をはじめ、ニューヨークの「ロイヤルトンホテル」、香港の「ペニンシュラホテル」、オランダの「グローニンゲン美術館」など数々のインテリアを手掛ける。
代表的なブランドには、カルテル、バカラ、フロス、アランミクリ、アレッシ、グラスイタリア、ディオール、ペリエ、エメコなどが名を連ね、日本では浅草のアサヒビールホール「フラムドール」を思い浮かべる人も多い。