マスターズ|Masters
デザイン:フィリップ・スタルク|Philippe Starck|フランス
製造:カルテル|Kartell|イタリア
2010年|ダイニングチェア・椅子
<目次>
マスターズ誕生の背景にある、深い物語
名作のDNAを受け継ぐ、革新的チェア
スタルクの転機と「マスターズ」誕生
名作へのオマージュか、革新か
スタンダードとしての完成度
技術革新が支える美しさと実用性
まとめ:名作としての確かな存在感
マスターズ誕生の背景にある、深い物語
単なるプロダクトとしての魅力を超えて、「マスターズ」はデザイン史に刻まれる椅子です。
その誕生には、デザイナー自身の葛藤と再起のドラマがありました。まずはこの椅子の基本構造を押さえておきましょう。
名作のDNAを受け継ぐ、革新的チェア
「マスターズ」は、1950年代のミッドセンチュリーを代表する3脚──セブンチェア、シェルチェア、チューリップアームチェア──のアウトラインを融合させた、まったく新しいスタイルのダイニングチェアです。
軽量で丈夫、スタッキング可能な設計により、住宅から商業空間まで幅広く採用されています。
その独創的なフォルムは、スタルクならではの美意識と機能性の融合。座り心地の良さと視覚的インパクトを両立させた、まさに“使えるアート”です。

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スタルクの転機と「マスターズ」誕生
2008年、世界的デザイナーであるスタルクが突如「過去の作品を否定し、2年以内に引退する」と発言。業界に衝撃が走りました。
そんな中、Kartellから「未来のアイコンとなる椅子」のデザイン依頼が舞い込みます。
過去に「ルイゴースト」で成功を収めたスタルクにとって、これは再起のチャンス。
彼は自らの美学と挑戦心を込めて、マスターズのデザインに着手します。
名作へのオマージュか、革新か
スタルクが描いたのは、誰もが一度は目にしたことのある名作椅子の輪郭。
しかしそれらを単に重ねるのではなく、重複を削ぎ落とし、彫刻的な曲線と人間工学を融合させた独自のフォルムに再構築しました。
この大胆な引用はKartell社内でも議論を呼びましたが、結果的に「マスターズ」は新たな価値を持つ椅子として認められ、スタルクの復活を象徴する作品となったのです。
スタンダードとしての完成度
「マスターズ」は、ただのデザイン遊びではありません。
背もたれと座面が交錯するシルエットは、名作チェアの記憶を呼び起こしながらも、まったく新しいアイコンとして成立。
座面にはスタルクらしい流麗な3次元曲線が宿り、視覚的にも触覚的にも心地よい体験を提供します。
技術革新が支える美しさと実用性
Kartellの高度な射出成形技術により、「マスターズ」は改質ポリプロピレンを用いたモノコック構造で製造されています。
現在では100%リサイクル素材に切り替えられ、サステイナブルな製品としても評価されています。
技術的な特長:
・中空構造で軽量化と強度を両立
・一体成型により高耐久・高精度を実現
・曲面の再現性が高く、デザインの意図を忠実に反映
・素材自体のしなやかさが快適な座り心地を提供
・バッチダイドによる鮮やかな発色と塗装不要の耐久性
・大量生産でも品質を維持し、材料ロスを最小限に抑制
まとめ:名作としての確かな存在感
「マスターズ」は、スタルクの美学とKartellの技術が融合した、現代のスタンダードチェアです。
その背景にある物語を知ることで、単なる椅子以上の価値が見えてきます。日常に溶け込みながらも、空間に確かな個性を与えるこのチェアは、今後も多くの人々に愛され続けるでしょう。
フィリップ・スタルク|Philippe Starck
フランス人デザイナー、1949年生まれ。
インテリア、家具、照明、建築、日用品、パッケージ、アパレルに至るまで、これまでにありとあらゆる分野のデザインを手掛ける。パリのカモンド美術学校卒業後、ピエールカルダンのアートディレクターを務め、インテリアと家具のデザインを担当。独立後多くのインテリアデザインを手がけ、その活躍ぶりが当時のフランス大統領、ミッテラン氏の目に留まり、1982年エリゼ宮殿のスイートルームのデコレーションを任される。これを機に世界中から脚光を浴び、出世作でもあるパリの「カフェ・コスト」をはじめ、ニューヨークの「ロイヤルトンホテル」、香港の「ペニンシュラホテル」、オランダの「グローニンゲン美術館」など数々のインテリアを手掛ける。代表的なブランドには、カルテル、バカラ、フロス、アランミクリ、アレッシ、グラスイタリア、ディオール、ペリエ、エメコなどが名を連ね、日本では浅草のアサヒビールホール「フラムドール」を思い浮かべる人も多い。